カラーマネジメントとは
未だにいくつかのサイト記事やセミナーなどでWEB用の画像はsRGBで行うべきと言われています。印刷屋やプリントもsRGBで十分とか、実際にもそれで運用もされています。一般に流通させることを含めて、勿論これらは必ずしも間違いではありません。
では、いつまでsRGBなのでしょうか?現実的にはそれが無難だからと言うこともあります。出力機がsRGB指定だからとか機械のパネルの色域の問題など、まだ残されているものも確かにあります。さらに、未だまだ多く言われる理由は「国際規格」だからと言う説明。しかしこの言葉も名称だけでなく時代背景も一緒に考えるべきです。
すでに写真用インクジェットプリント(カラー出力)の色再現域はもとより、スマホやタブレットなどのデバイスの色再現域もかなり広がっていて、現在は「iPhoneやiPad、Androidなどのデバイス」の多くはDisplayP3と言う広色域をカバーしています。
*もちろん、紙もデバイスのディスプレイもメーカーや種類まで考えると完全な対応は出来ません。
今更書くことではないのかも知れませんが、まだ暫くは続くであろうこの「国際規格だからsRGB」と言う色空間と、現状の色域について少し考えて見ましょう。
♦️あらためて、標準カラースペースの運用について考えて見ましょう♦️
2024年12月現在。DisplayP3カラースペースの運用もスマホを中心にかなり増えてきましたが、未だビジネスでの多くのユーザーは、写真業界の画像データに利用する標準カラースペースの使い方は以下だと思っています。
確かに現状もWEB用途では、sRGBの運用が一般的です。
画像を見る「環境・利用方法」などがユーザーごとに違いますし、何より「PC-デバイス側の色再現域」や「OS、ブラウザ、ソフト(アプリ)」などカラーマネジメントの状況が分からない場合もありますので、sRGBの運用が無難ではあります。
印刷の場合でもよく言われますがCMYKだけのことを考えるのであればsRGBでも問題は無いのかも知れません。
ここで少しだけ振り返りましょう。
standard RGB 1998年にIEC(国際電気標準会議)が定めた国際標準規格
カメラやモニター、プリンターなどでこの規格に準拠し、互いの機器をsRGBに則った色定義で連携を
させることで、入出力時の色の差を少なくすることが目的。*当時の事情含む
Adobe RGB 米アドビシステムズが制定した色空間
同じ年1998年に発表されたが、特に国際規格としては標準化されていません。AdobeRGB1998となっていますが、リリースは2000年8月です。
sRGBに比べて広い範囲の再現領域を持ち、印刷物などに対する適合性や色校正の厳密性も高く、写真やDTP業界では標準ツールとして使用されます。
*肝心なのは、sRGBが1998年に制定されたと言うことですね。こちらは後半にもう少し触れてみます。
♦️標準カラースペースに加わった『Display P3カラースペース』♦️
Display P3 2016年にAppleが制定した色空間
iOS10でiPhoneやiPadで運用する独自の画像データ用カラースペースとして、
『Display P3カラースペース』を作りました。
現在はAndroidもDisplay P3を使用し、ユーザー間での広色域での画像共有が出来る様になりつつあります。
*アプリやデバイスの書き出しには未対応のものもあります。
Appleはデバイス(ディスプレイ)の表示能力も『Display P3カラースペース』をフルにカバーする仕様になり、デバイスやそれに関わるソフトなど、カラーマネジメントを含めてAppleが牽引して行こうとしているのですね。
P3と言う言葉が「デバイス自体」の色再現域と勘違いされる事が多いですが、『Display P3カラースペース』はDCI(Digital Cinema Initiatives)で規格されたDCI-P3の色域をベースにAppleが「sRGB」に代わるデータ用のカラースペースとして策定しました。確かにデバイスの表示色域も年々広がっていますが、画像に使用するカラースペースはデバイス表示の事ではありません。正確にはそのカラースペースの色域をカバーしていると言う事ですね。
一般的なカメラはJPEGなど記録するときに「sRGB」か「AdobeRGB」を選択します。この部分でiPhoneなどAppleデバイスの場合はカメラで記録するときに「Display P3カラースペース」を使用していると言う事です。
業界ではデバイスのディスプレイ表示が「Display P3」だと勘違いされることが多いですが、間違いです。
*詳しくはこちら Appleから始まる新しいカラースペース をご覧ください。
上のガモットは左が「iPad Pro 10.5」の表示色再現域です。
デバイスの多くは個体差もありますが、おおよそこの色域表示で白色点はおおよそ6500k~7200kです。画面の明るさによっても変わります。ちなみにこのiPhoneやiPadの表示色再現域は「AdobeRGB」に近いです。
真ん中と右の画像は「iPad Pro 10.5」色再現域と「Display P3カラースペース」を比較したものです。
白く薄くなっている部分が「iPad Pro 10.5」でカラー表示が「Display P3カラースペース」です。
この図からも解る様に、実際はiPadで撮影して緑から赤の彩度の強い部分は仮に画像として色を持っていても「iPad Pro 10.5」では正しく表示することが出来ません。
*2024年現在のAppleのデバイスの多くはDisplay P3をカバーするそれに近い表示色域を持っています。
2019年1月時のデバイスを含めたカラースペースの運用をまとめておきます。*2024年現在は多くのデバイスで広色域で「Display P3 カラースペース」をカバーしています。
sRGB | ◎PC(Windows OS)の一部と広色域ではない廉価モニター・ノートPC/タブレットなど *一部除外条件あり |
Display P3 (AdobeRGB) |
◎MacOS、iOS □2017年以降のiMacやMacBookPro、iPhone、iPadは広色域。 (現在はDisplayP3をカバーするディスプレイの色再現) ◎Android 8.0 Oreo以降 □OreoからOS側でのカラーマネジメント対応。 Android 10でカメラがDisplay P3対応 (最新のスマホなどのデバイスはiPhone並みの広色域) |
Adobe RGB |
◎印刷やインクジェット出力向け |
スマホなどデバイスの一般普及率はPCよりも圧倒的に多くなっています。それに伴い各社の技術革新も凄まじい速さで進んでおり、ユーザーのほとんどは使いこなすのも一苦労ですよね。
WEBの色はデバイス側の表示能力だけでなく、OSや各種アプリのカラーマネジメント能力と合わさって広色域の正しい色を運用出来ます。Appleは古くからMacOSで対応していましたが、それ以外ではまだ対応に遅れているものもあります。
現状はiPad、iPhoneだけでなく、最新のスマホ(Android)も広色域なものが増えて来ています。
また、Androidは『8.0 Oreo』でカラーマネジメントに対応しました。カメラアプリや写真アプリのflickrやInstagramなど多くのブラウザアプリもDisplay P3に対応しています。Android 10でカメラの画像データもDisplay P3に対応しました。
このことから、MacやiOS、Androidでの使用限定であれば、WEB用の画像カラースペースは『Display P3』で行う方が『標準』になり、綺麗に画像を表示・運用出来ます。もちろんカラーマネジメントも行なっていますので、AdobeRGBでも大丈夫です。
ただし、一部Windowsは最新を除きOSやモニター、ブラウザの環境では今現在も「sRGB」での運用の環境もあるようです。
♦️sRGBについてもう少し深掘りしてみましょう♦️
2024年現在、デバイスの色再現領域はかなり広がりました。モニター同様にスマホやタブレットもDisplayP3(DCI-P3)並みの色表現をします。
テレビやモニターもRec.2020などさらに広色域のモニターの開発も進んでいます。
次世代画像のHDRO(HDRアウトプット=ディスプレイ)では、標準のカラースペースにPQガンマやRec.2020を利用しています。
個人的には従来のカラースペースと考え方が違う気もしますが、それはまたいずれ落ち着いたら修正していきます。
ソフトウエアもそうですが、デバイスなどあらゆる「物」の進化を考えるときは、過去の時代背景や当時の状況を一緒に考慮すべきです。sRGBはIECが1998年に定義したとされるものですが、その当時のPCやブラウン管ディスプレイの色再現はどうだったでしょうか?
若い世代は経験したことは無いのでしょうが、PCが一般に普及したブラウン管の頃、ブラウン管テレビやモニターが再現出来た色は、sRGBの半分くらいの色再現域しかありませんでした。
MacのiBookもそうでしたね。iPhone4の頃までもデバイスとしては技術的にまだsRGBに届かない、そう言う時代でした。
なので当時の背景としては、1990年にITU-Rが定めたRec.709をベースにし、8bit、1670万色あれば十分だと規格として考えられたとされています。
つまり少し乱暴に言ってますが、IECが規格を決めたものは、当時としてはその規格自体が、ある種未来的な次の世代のモニターに合わせたと言う発想で、現在もよく耳にする『sRGBの色空間であればPCで扱う色再現としては十分だ』と言う事でした。
あらためて、1998年に制定された国際規格ですが、現在のデバイスのことだけを考えると必ずしもsRGBが正解ではなくなっているのだと思います。
単純に考えれば、印刷やプリント出力などの話を別にして、OSから何からユーザーが何も意識せずともしっかりとカラーマネジメント対応して、量販店に売られているモニターの全てのメーカーや商品がDisplayP3やAdobeRGB以上の表示になれば、『sRGB』は完全に必要なくなります。
そんな未来ももうすぐだと思います。
*工業製品や機器類に付属する小型表示デバイスはsRGBの範囲内のものが多いです。それらの為にはsRGBでの画像処理はおそらくこの先も当分は必要です。