カラーマネジメントとは
モニターで見えている画像の色が他のモニターやデバイスで違う色に見える。さらにプリントや印刷をすると全く違う色に見えると言うことがあります。
業界では「カラーマネジメント」を行えばそれらが解消すると言うことで、「モニターのキャリブレーション」をしたり、各種ソフトウエアのカラー設定を意識したりすることが重要とされます。でもそれだけではダメなんです。
本来はそもそも「カラーマネジメントとは何か」を基本から全て知っておくことが大事ですが、実際にはその情報量はかなりあります。どこまでカメラマン側が認識する必要があるのか?知らなくても仕事は問題ないと言う人も多いと思います。さらに、問題ないと言う人の中には問題が起きているのに気が付いていない人もいます。
だからこそ仕事でトラブルを起こさないようにするためにも最低限の「必要な知識」と「やらなければならない事」は理解しておくほうが良いと思います。
とは言え、一から全部覚えて運用するのはとても大変だし、このページでは『最低限これだけは確認してほしいこと』を書いておきます。まずはここからチェックして頂き、各項目でさらに知識が必要な場合はいろいろ勉強して見るのは如何でしょう。
TOPページでも書きましたが、カラーマネジメントを行う目的は「カメラで撮った画像、ソフト(アプリ)で処理した画像が、モニター(デバイス)やさらにWEBなどで見ても同じように見えること、さらにプリントや印刷をしても出来るだけ同じに見える様にすること」です。
「運用する画像のカラースペースで環境を統一する」と言うような書き込みも見かけますが、厳密には違います。
最終目的(デバイス表示なのか、印刷なのか)に合わせて、運用する画像のカラースペースを共有して「認識・表示・確認および調整」が出来る環境を整えることですね。
しかし、その為には「するべきこと、限界があること」などを知っておく事が必要です。端的ではありませんし、理解していることも多いかも知れませんが、各項目のそれぞれを出来るだけ少ない情報でまとめてみました。良ければご覧ください。お役に立てると幸いです。
♦️再認識:デジタルの「色」には基準があります♦️
画像データに使われる「色」には基準があります。データの色を確定する『色の範囲(カラースペース)のプロファイル』と、それを表示する「モニターやデバイスなどのディスプレイ(表示する色範囲のプロファイル)」。さらに画像のプロファイルを正確に表示する各種ソフトウエアやアプリ、そして「印刷・プリント」の表示できる範囲と色の再現バランス(出力範囲のプロファイル)。
実際には基準以外のこのそれぞれに『物理的な要因』を持った個体差やメーカーごとの解釈で違いがあることを理解します。それらに合わせて可能な限り各種設定と色調整を行います。
デジタルの色の基準について、詳しくは「5.デジタルの色、CIEとICCについて」をご覧下さいませ。
♦️画像(RGB)データは、最終目的(使用先)のカラースペースを運用する♦️
*CMYKの話ではありません。
カメラでJPEGやTIFF撮影の場合は、カメラ側でsRGBかAdobeRGBを目的(使用先)に合わせて選択します。iPhoneの場合はDisplayP3カラースペースになります。*デバイスやアプリによっては選択も可能。
それ以外は、用途の変更を含めて高品質な画像作成のためにカメラマンの多くは「RAW」で撮影をして、目的に合わせて画像処理でカラースペースの選択と運用を行います。
例えば写真館や個人的にプリントなどをお店で出力してもらう場合は、出力機によりますがsRGBを指定される事が多くあります。広告印刷などの場合はAdobeRGBを基準とされていますし、WEBの運用では今現在も一般的なPCを含めてsRGBで良いとされています。
個人でスマホやタブレットなどで楽しむ場合は最新基準としてはDisplayP3が最終目的のカラースペースになります。
*「iPhoneやAndroidなどのスマホ」や「iPad、タブレット」などでの運用をメインとした場合は、デバイスがDisplayP3(DCI-P3)対応の表示で、アプリも各社P3対応になってきていることからカラースペースはDisplayP3をメインとする話も増えて来ました。
デジタルは必ずしも万能ではなく、色に関しても同様に後で「広色域の階調に正確に変更」などは出来ません。何よりも「最終目的内の表現」として、より適切な色表現をさせる為には、その「目的の色空間内」で破綻のない色を出せるように色調補正します。
RAWで撮影する場合は、 RAW現像ソフトでその目的に合わせた色で処理・確認をする為の「作業色空間」、そして書き出し時の「色空間」を含めて同一のカラースペースを選択します。
*印刷などの場合は、校正モードなどで確認しますが、まずは目的の標準カラースペース内で綺麗に収まるようにします。
*印刷やとくにインクジェットでのプリントなどは条件によっては標準カラースペースよりも再現域が広いものがあります。なので、最終目的の為にあえてRAW現像段階からProPhotoRGBなど巨大な広色域カラースペースを使用する場合もありますが、そもそもの画像の色はともかく「デバイス表示自体」がその色域を再現できませんし、最終出力の為に場合によっては2度目の色補正が必要になります。
♦️表示させるブラウザや写真アプリなどがカラーマネジメントに対応しているか確認・認識する♦️
画像を表示させるブラウザやアプリなどの各種ツールが、そのRGBデータのカラースペースを認識して正確に表示出来なければ色が正しく表示されません。
OSはもとより、正確にカラーマネジメントされているブラウザや写真アプリであれば、画像にあてがわれているカラースペースの大きさに関わらず、そのモニター再現域の中で可能な限り正しい色で表示されます。
カラーマネジメントをしていなかったり、ある一定の色空間しか表示できない場合は当然正しい色に見えません。
例:デバイスのアプリがカラーマネジメントしておらずDisplayP3の色域しか対応していないのにsRGB画像を表示させたり、また、AdobeRGB画像なのに写真アプリがsRGB表示しか出来ないなど
♦️モニターの種類、色域と表示用プロファイルの確認・再認識をする♦️
モニターが再現できる色域は、機種ごとに違います。
まず、前提として各種メーカーの「モニター」や「PC・ノート一体型のディスプレイ」、iPhoneやAndroidなどのスマホ、iPadやタブレットなどの「ディスプレイ」は、各々のデバイス表示は物理的な「部材や仕組み」などの問題で『結果的な色』で表示されます。それはよく耳にするsRGBやAdobeRGB、DisplayP3などの色空間と同じではありません。あくまでそれらに近い色(色域をカバーしている色)を表示していると謳っているだけです。
当然ながらsRGB表示モニターではそれより広い色域、例えばAdobeRGBやDisplayP3などの画像は正しく表示することが出来ません。
また、昔からよく勘違いされてきましたが、広色域なAdobeRGB「表示のみ」に対応した一般的なモニターや「一体型PC・ノートPC」などでは、sRGBの色域を正確には表示出来ません。モニターの色再現に関わる設定で表示変更機能にsRGBモードがあっても実際には『表示する色域がsRGBの小さい色域表示』にならない場合があります。
同様に業務用と言われる「広色域なカラーマネジメントモニター」で、モニター側の設定(OSD)をsRGBに指定しても「PC(OS)側のモニター環境設定のプロファイル」が変更されず、色域がsRGBになっていないので正確な表示にならないものもあります。これはモニター表示の色域が変わっていないのに無理な設定をあてているのと、PC側のディスプレイのモニタープロファイルがネイティブ(広色域)のままで、連携しておらず不一致の為に起こります。
さらに画像のカラースペースと、表示しているモニターやデバイスの表示範囲が違う場合は必ずしも正確な色表示にはなっていないことを再認識しましょう。
以下の条件も厳密には違いがあります。
*sRGBモニターでAdobeRGBやDisplayP3画像を表示する場合、もとより色座標も違いますが、何よりsRGBの色域を超えている色に関しては正確に表示出来ません。
*画像データに「調整や出力用途の画像処理用」として使われる「ProPhotoRGBカラースペース」を使用したり、HDRディスプレイで推奨されるHDRフォトに使用する「BT.2020」などの広い色空間も現時点ではその色域を網羅しているモニターはありません。
*iPhoneやiPadなどのデバイスはディスプレイの色域がDisplayP3に近い色域の表示(プロファイル)で固定されているので、それ以上に広い色域のカラースペースは正しく表示されません。
◎重要:キャリブレーションで作成された「モニタープロファイル」が、PC側の環境設定(モニタ環境設定)の表示プロファイルに当てがわれているか確認する。
*画像処理ソフトの表示は、モニタプロファイルを参照します。
例えばAdobeRGB対応モニターでモニター側をOSDなどのプリセットでsRGBに変更した場合、PC側もそれに合わせたsRGB用の色域の狭いプロファイルに変更されていなければ正しいsRGB表示にはなりません。
*上図参照
*EIZO以外のメーカーでは正しい仕様では無いものが多いので確認が必要です。
*2画面表示機能は、モニターを2つ接続しているわけではありませんので、環境設定にはプロファイルは1つだけです。この場合もsRGBは正確な表示になっていません。
*HDRディスプレイやiPhoneなどのHDR(表示)対応している高輝度のディスプレイは、明るさ・コントラス・色彩などの違いが大きい為に色味を含めて「印刷やプリント」と合わせることは出来ません。
♦️モニターのキャリブレーションを行う事と、キャリブレーションの種類の違いを再認識♦️
画像の色を正確に「表示」するためには、まずはモニター表示の色を正しくしなければなりません。買った状態のモニターは明かる過ぎたり、青みが強かったり、部材の条件により色の表示バランスが悪かったりします。さらに使い続ける事で画面表示は経年劣化(経時変化)していきます。
新品の場合は「月に一度のキャリブレーション:およそ200時間」を推奨されますが、一般的なモニターやPC一体型、ノートPCなどでハードに使用している場合は1年も経過すると「2週間に一度」やそれ以下の頻度でキャリブレーションしなければならない場合もあります。
また出荷時にキャリブレーションしていると言われるモニターも経年劣化(経時変化)に対応している訳ではありませんし、何よりもそもそも印刷向けにキャリブレーションされている訳ではありません。
その為に測色器(センサー)を使い、その専用ソフトやハードキャリブレーション用のソフトで定期的にキャリブレーションを行う必要があります。
*補足:本来の「出荷時校正」とキャリブレーションは同じ意味ではありません。
*注意:一般的な外付け単体モニターやノートタイプ含めてPC一体型のモニターは「ソフトキャリブレーション」タイプとなり、業務用のカラーマネジメントモニターと言われているものが「ハードキャリブレーション」タイプになります。どちらもキャリブレーションを行い、発色を調整することが出来ますが、その仕組みと結果は同じではありません。この違いを理解しておくことは重要です。
ソフトキャリブレーションはそのそもそもの仕組み上、ハードキャリブレーションタイプに比べて正確な表示にはなりません。またハードキャリブレーションタイプであっても、製品の仕組みと仕様によっては正しい表示になっていないものもあります。
*iPhone、AndroidやiPad、タブレットなどのデバイスはディスプレイのキャリブレーションを正確に行うことが出来ません。画像の最終表示目的がこちらならRGBデータの色をデバイスの色域に近い「DisplayP3カラースペース」を運用することでカバーします。さらに作業するモニター側の表示を「デバイス表示」に近い設定でキャリブレーションして画像処理を行います。
*モニターやデバイスは、メーカーの違いや使用している部材・作り込みなど様々な違いがあり、「同一目標値」でキャリブレーションを行なっても全てのモニターやデバイスが同じように表示される訳ではありません。
キャリブレーションやセンサーについては「4.モニターのキャリブレーションと測色センサーについて」をご覧くださいませ。
♦️画像処理ソフトウエアのカラーマネジメント、作業色空間を設定する♦️
画像処理(画像作成)は、そもそも『目的』に合わせて作成します。目的というのは、印刷だったりWEB用、iPhoneなどのデバイス表示が目的とかですね。
『デジタルは万能』と言う印象が強いですが、実際にはそんなに都合良くはなく、融通の利かないことの方が多いです。色に関しても「勝手に綺麗になる」などと言うことはなく、現実にはそうそう思い通りには行きません。
その為には、処理(作成)段階で作業色空間を意識するのが大事です。その目的の色空間で色の差異が少なく、飽和しないようにすることがベストです。
Photoshopのカラー設定、校正モード、RAW現像ソフトの作業色空間の設定など、最終目的に合わせて「色表示、色域警告、色調整」が行われるようにして確認が出来るようにします。
*モニターがsRGBの場合は、基本的にはsRGBデータの運用を行います。処理する画像がsRGB以上の広い色空間では正しく表示されていない場合があります。
画像処理ソフトやデバイスのアプリによっては、作業色空間のカラースペースが「ProPhotoRGB」や類似の大きな色空間に固定されているので、目的が「印刷やsRGB画像」など色域の狭い画像データでは正しく表示されない場合があります。
*上の画像のプレビュー部分の見え方は、sRGBモニターでは違いが分かりません。
*デスクトップLightroom、LightroomClassicの現像モジュールは作業色空間がデフォルトでProPhotoRGBです。
*Lightroom(モバイル)の場合は、デバイス表示がDisplayP3並の表示に対し、Lightroomモバイル(アプリ側)の「表示・作業色空間」は「ProPhotoRGB」固定なので、色域の狭い画像として正確な表示になりません。当然そこからsRGBで書き出すと画像によっては色が大きく飽和したり違う色で書き出されます。
♦️画像の色と印刷の色を比べるには「校正モード」を使用する♦️
印刷すると大きく色が変わる場合があります。基本的には印刷で再現される色の範囲が画像データの色より狭い場合や紙とインクの関係で大きく変わりますが、PhotoshopやRAW現像ソフトなどでは「校正モード」などがあり、あくまでデジタル的な処理ではありますが随時その色の変換後の色見を確認することが出来ます。
*RAW現像ソフトの場合は「作業色空間」で目的のカラースペースを使用することで、その画像でどの部分の色が出ないのか、飽和するのかを確認します。
♦️プリントする場合は、プリント設定のカラー設定をカラーマネジメントにする♦️
プリントをする際にプリント設定から選択します。Photoshopではプリントダイアログになりますが、「プリンターによるカラー管理」はカラーマネジメントではありません。画像データの色味に近いプリントをしたい場合は、「Photoshopによるカラー管理」などカラーマネジメント対応の選択をして、プリンターと使用する用紙に合わせた専用の「プロファイル」を指定します。
♦️レンダリングインテントを確認する♦️
印刷やプリントする際は、画像データの色域から比較的に色再現幅の小さい部分が多いプリントデータ(プロファイル)に色を変換しなければなりません。もちろんその逆もありますが、その際に広いアリア、狭いエリアの色(ピクセル)の変換処理をどのように変換するかをユーザーが指定します。
写真の場合は「知覚的」か「相対的な色域を維持」の2種類ですが、違いを知っておく方が良いでしょう。
メーカーのデフォルトは、ほとんどが「知覚的」になっています。しかし、RAW現像や画像処理の多くは目的に合わせて作成するものなので、差異を出来るだけ少なく処理することも多くあります。なので、デフォルトを「相対的(な色域を保持)」にする方が良い場合もあります。
レンダリングインテントについては、「3.プロファイルの運用とレンダリングインテント」で説明しています。
♦️環境光を整える♦️
画像処理を行う部屋の環境光を一定にします。部屋はモニターより明るすぎてもいけませんし、過度に暗すぎるのもよくありません。
部屋自体は窓があれば遮光カーテンなどで常に明るさを一定にます。モニター周りや壁などはなるべくシンプルな色味の方が良いです。可能であれば、モニターの近くだけではなく、作業する部屋の光を高演色性のライトにするのがベストです。
ライトは「5000k(昼白色)」と「6500K(昼光色)」があります。どちらも一般的なお店で買えますが、出来る限り演色性の良い業務用もしくは色被りの少ない高演色を謳う商品を使用するのがベストです。LEDシーリングライトでは、演色性も良く色温度を変更できるものもあります。
モニターの側で高演色の専用のスタンドライトなどで照らすと言われることもありますが、スタンドライトはモニター表示と出力された物を「見比べる」時に使用するものと考えた方が良いかも知れません。
モニターのすぐ上ではスタンドライトは明るすぎたり、目に邪魔だったりします。
ブログ:RAW現像する部屋の環境光について。KOIZUMI照明株式会社の『太陽光スペクトルLEDシーリングライト』を試してみた。